1.はじめに
IFRSは、今や日本と米国を除いた多くの国で正式な会計基準として導入されています。日本では未だ任意適用となっていますが、今年に入ってその適用企業数は100社を超えました。そこで今回より、不定期でIFRSをテーマとして取り上げたいと思います。まず第一回目として、IFRSの特徴である原則主義という考え方について説明したいと思います。
2.IFRSとは - 投資家保護の観点から作られた会計基準
国際会計基準と言われるIFRSですが、正確には「国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards)」と言います。これは、全世界で共通の会計基準を作成することによって、各国の企業の財務諸表を投資家にとって比較可能なものにすることを目的として作られたものです。
従来、各国で異なっていた会計基準のもとでは、投資家は、国の異なる企業間の財務諸表数値を正しく比較することが困難であり、投資意思決定を誤ってしまう恐れがありました。このような状況を改善するため全世界で統一した会計基準を作ろうと、世界各国の会計士や学者などが集まり現在のIASB(国際会計基準審議会)という機関が設立されました。このIASBによって作られた会計基準がIFRSです。
3.IFRSの特徴
日本の会計基準と比較した際のIFRSの特徴としては、①原則主義による記述、②注記事項が非常に多い、といった点が挙げられます。以下4項では、このうちの原則主義について説明致します。
4. 原則主義について
(1)原則主義:詳細な基準がない
IFRSには具体的な数値基準や判断基準の規定が殆どなく、基本的な会計原則の記述にとどまっている規定が多くなっています。そのため、IFRSのこうした記述の傾向は「原則主義(principles based)」と呼ばれています。
(2)原則主義対峙する概念:細目主義・規則主義
一方、原則主義に対峙する概念としては、細目主義・規則主義があげられます。これは詳細な判断基準や数値基準を示したものです。この目的としては、①会計上の判断をする必要がなく、誰が会計処理をしても同じ結果になる、②条文の解釈の余地を与えて都合の良い会計処理が実施されることを防止する、ということなどが挙げられます。現行の日本やアメリカの会計基準がこのタイプに当たります。
(3)原則主義が採用される理由
①IFRSが原則主義となっているのは、世界各国で適用されることを目指して作られた基準であることによります。
細目主義・規則主義では、国によってはその商慣習や法体系に抵触してしまうところも出てきてしまいます。そこで、原則的な規定にとどめることによって、それらの影響を最小限に抑えているのです。
②また、企業が細目主義・規則主義による詳細な規定を悪用して利益操作を行う余地を排除する、ということも理由として挙げられます。
例えば、ある国の連結会計基準に「議決権(株式)の50%超を保有している場合に連結対象とする」という規定があったとします。この場合、子会社の議決権を50%ギリギリの保有比率に保っておけば、必要に応じて1%の株式を売買することによって子会社の連結範囲を意図的に操作できてしまいます。ここに利益操作の余地が生まれます。このように、細目主義・規則主義ではその細目性を利用した利益操作が可能になるため、IFRSではこれを排除するために、原則的な記述にとどめた条文が多いのです。この場合、各会社が条文の趣旨を理解して、会計上の判断を自ら行って具体的な会計処理を検討・決定する、ということになります。
(4)各分野における原則主義の例
各分野における原則主義の概念について、以下にいつくかの例を示します。
分野 原則主義の特徴
連結会計: 連結対象範囲について、議決権の数値基準が存在しない
減価償却: 各資産の種類ごとの明細な耐用年数表は存在しない
税効果会計: 繰延税金資産の回収可能性について、日本基準におけるような会社類型毎の詳細な判断指針は存在しない。
・連結会計
日本の会計基準では連結対象となる子会社については基本的には「過半数の議決権を有している会社」や「一定の条件の下で40%以上の議決権を有している会社」などの詳細な規定があります。一方IFRSでは「実質的な支配力を有している会社」との記載になっており、議決権の数値基準はありません。
・減価償却
日本の会計基準では、税法による耐用年数の使用が認められています。一方IFRSでは「使用が見込まれる期間」と記載されており、資産の種類ごとの具体的な年数などは規定されておりません。
・税効果会計
繰延税金資産の回収可能性を判断する際、現状の日本の会計基準では、課税所得の発生の仕方によって会社を5つの類型に区分し、それぞれの区分ごとに異なった判断をしていくことになります(例:1分類では無条件に回収可能性があると判断。4分類では翌年分の課税所得見込み分のみ回収可能性があると判断。5分類では回収可能性は無いものと判断。)。一方IFRSでは、このような判断基準はなく、あくまでも将来の課税所得の発生可能性が高いか否かによって回収可能性を判断することになります。
5.おわりに
今回のニュースでは「IFRSにおける原則主義の考え方」について取り上げました。 なお、今回の解説も概略的な内容を紹介する目的で作成されたものですので、専門家としてのアドバイスは含まれておりません。個別に専門家からのアドバイスを受けることなく、本情報を基に判断し行動されることのないようお願い申し上げます。
ご不明な点がございましたら、お気軽に弊社までご相談ください。
(参考文献)
IASBホームページ
http://www.ifrs.org/Pages/default.aspx
日本公認会計士協会ホームページ
http://www.hp.jicpa.or.jp/ippan/ifrs/index.html
電話で問い合わせる03-6821-9455