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2016.09.30

海外勤務者の社会保険上の取り扱い

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1. はじめに
ビジネスの国際化が益々進展し、日本企業が社員を海外へ出向させる機会が増加しています。このような背景から前回のニュースでは、海外勤務者の日本における給与所得課税についてご説明しましたが、今回は海外勤務者の社会保険の取り扱いについて解説いたします。


2. 異なる社会保険の取り扱い
海外勤務者の日本における社会保険上の取扱いは、i) 海外勤務者と、日本の企業(以下、「出向元」という。)との間に雇用関係があるか否か、およびii) 海外勤務者の給与が出向元または出向先である海外企業のいずれから支払われるかで取扱いが異なります。


3. 被保険者資格が継続となる場合
雇用関係が引き続き出向元と締結されている状態(以下、「在籍出向」という。)であり、かつ給与の一部又は全部が出向元から支払われている場合、出向元との雇用関係は継続しているとみなされますので、海外勤務者の社会保険の被保険者資格は継続します。


4. 被保険者資格が喪失となる場合
雇用関係が出向先と締結されている場合(以下、「転籍出向」という。)や、在籍出向であっても、出向元から給与が支払われていない場合には、出向元との雇用契約は継続していないとみなされるため、日本での被保険者資格は喪失することとなります。


5. 社会保険(厚生年金・健康保険・介護保険)
被保険者資格が継続となる場合の、社会保険の取り扱いは以下の通りとなります。


(1) 健康保険
海外での健康保険の利用には原則として制限はありません。日本に在住している場合と、同様の給付が受けられることとなります。しかしながら、海外では保険証が使えないため、まず医療費を全額負担し、のちに海外療養費制度により払い戻しを受けることになります。しかし、日本の保険者(協会健保・組合健保)への請求手続きは診療明細書に和訳を添付することになっています。又、還付される医療費は日本で保険診療を受けた場合が基準となるため、海外での医療費が全額支払われるとは限らず、医療費の高い地域では、かなりの自己負担を強いられる可能性があります。


(2) 介護保険
介護保険の対象者は、40歳以上の日本に住民票がある人です。40歳以上の被保険者を在籍出向させる際は、出国時に「介護保険適用除外該当届」を提出することにより、海外に出国した月から介護保険料を支払う必要はありません。海外勤務中に40歳になった場合には該当することとなった時点で提出する必要がありますので、注意が必要です。
なお、国内に住民票を残したまま海外勤務する場合や、「介護保険適用除外該当届」を提出していない場合は介護保険料の支払いが発生します。


(3) 厚生年金
資格継続の場合は、日本に在住していた時と同じ扱いになり、厚生年金保険料の支払いが必要です。従って、厚生年金被保険者期間として算入されますので将来の年金額に反映されます。
しかしながら、通常は海外勤務地においても年金制度に加入する必要があり、日本と海外勤務先国の保険料を二重に負担することになります。さらに、海外勤務期間は通常数年程度と短期間のため、海外勤務先国で支払った保険料は結果的に掛け捨てになってしまいます。この保険料の二重払い、年金の掛け捨てに対する救済措置として、日本と諸外国との間で社会保障協定が順次締結されています。社会保障協定を締結した国に出向した場合、派遣期間により保険料の支払いが免除になる場合がありますが、国により条件が異なるため、個別に確認する必要があります。


6. 労働保険

(1) 雇用保険
在籍出向の場合、出向元との雇用契約が継続しているため被保険者資格は継続します。なお、出向元から給与の一部が支払われる場合で、海外勤務者が退職した場合は、「受給要件の緩和」の措置が受けられる可能性があります。「受給要件の緩和」とは、海外勤務中の日本払賃金が著しく低いと認められれば、退職の日以前2年間の被保険者期間に、さらに最大2年間まで被保険者期間を加算できるというもので、例外的に海外勤務前の給与をもとに失業給付の金額を算定できるというものです。


(2) 労災保険
労災保険は、日本国内にある事業所に所属して働く労働者が保険給付の対象となる制度のため、在籍出向・転籍出向いずれの場合も対象外となります。しかし、海外で勤務する方についても労災保険の給付が受けられる制度として「海外派遣者特別加入」の制度があります。特別加入の対象者となるかどうかは企業規模や就労形態等の条件があるので、事前に確認することが必要です。


7. おわりに
今回のニュースでは「海外勤務者の社会保険上の取り扱い」について取り上げました。 なお、今回の解説も概略的な内容を紹介する目的で作成されたものですので、専門家としてのアドバイスは含まれておりません。個別に専門家からのアドバイスを受けることなく、本情報を基に判断し行動されることのないようお願い申し上げます。


ご不明な点がございましたら、お気軽に弊社までご相談ください。


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