1. はじめに
グローバリゼーションが進むにつれて、日本企業の海外進出は中小企業にとっても身近なことになりつつあります。これに伴い従業員が海外現地法人・支店等で勤務する機会が一層増えています。海外勤務者の日本における所得税の取扱いは、国内勤務者と勝手が違い、いろいろと戸惑うことも多いかと思います。そこで今回は、従業員が海外勤務をする際の日本における給与所得課税の取扱についてまとめてみました。
2. 日本での居住形態と課税所得の範囲
所得税法上、居住者とは、国内に住所を有し、又は、現在まで引き続き1年以上居所を有する個人をいい、居住者以外の個人を非居住者と規定しております。
よって、日本を1年以上の予定で離れる場合は、日本を出国した日の翌日から日本の「非居住者」に該当します。一方、日本を出国する場合でも、海外出張や短期赴任等で日本を離れる期間が1年未満の予定の場合は、たとえ国外に滞在していたとしても引き続き日本の「居住者」に該当します。下図のとおり、海外勤務者がどの居住形態区分に属するかにより課税される所得の範囲が異なるため、海外勤務者がどの居住形態に該当するのかを適切に判定することがとても重要となります。
◆日本における賞与・給与に対する居住者(非永住者を除く)・非居住者の課税範囲と課税方法
なお、海外勤務者に対し日本の親会社が留守宅手当を支給することがあります。留守宅手当は海外勤務に基因する対価であることから「国外源泉所得」に該当し、日本での課税対象にはなりません。しかしながら、海外勤務者が会議参加等で一時帰国した際、その期間に係る部分の留守宅手当については、「国内源泉所得」に該当することとなるため、原則として20.42%課税されることになります。
3.出国に伴う取扱い
(1)出国後、最初に支払う給与の取扱い
所得税基本通達(212-5)より「給与計算期間の途中で非居住者になった人に支払う給与等のうち、その非居住者となった日以後に支給期の到来するもので、その給与等の計算期間が1か月以下であるものについては、その給与等の全額が国内勤務に対応するものである場合を除き、その全額を国外源泉所得とみなす」ことが認められています。したがって、非居住者に該当する場合については、出国後最初に支払う給与については、以下のとおりとなります。
① 給与計算期間の途中で出国した場合
この場合、8月25日に支給される給与については全額が国外源泉所得とみなされ、非課税となります。
② 給与計算期間後に出国したケース
この場合、8月25日に支給される給与は全額国内において行った勤務になることから、全額が課税対象となり20.42%の税率で源泉徴収をする必要があります。また源泉徴収により課税は完結しますので、年末調整の必要はありません。
(2)出国後、最初に支払う賞与の取扱い
出国後に支給日が到来する賞与については、上記通達の「給与等の計算期間が1か月以下であるもの」に該当しませんので、その賞与計算期間のうち国内勤務の部分については20.42%の税率で源泉徴収をする必要があります。給与の場合と同様に源泉徴収により課税が完結しますので、年末調整の必要はありません。
この場合は国内勤務に対応する7月1日~9月20日(82日)分を按分(82日/184日)計算し、20.42%の税率で源泉徴収します。
(3)年末調整
日本を1年以上の予定で離れる場合は、日本を出国した日の翌日から「非居住者」となりますので出国時に年末調整を行う必要があります。年末調整の対象期間は出国する年の1月1日から出国の日までです。この場合の所得控除は次のように取り扱います。
① 社会保険料控除、生命保険料控除及び地震保険料控除等についてはその者が居住者であった期間内に支払った金額が控除の対象となる。
② 控除対象配偶者、扶養親族等の判定については、出国の日の現況において判断する。
4. 帰国に伴う取扱い
(1) 帰国後、最初に支払う給与の取扱い
海外勤務者が帰国した場合は帰国の日から居住者として扱われます。居住者は全世界所得課税ですから、帰国後最初に支払われる給与に国外勤務分が含まれていたとしても全額が課税の対象となります。出国時の取扱とは異なりますので注意が必要です。
この場合7月16日から8月10日までは国外勤務ですが、給与支払日には居住者のため、8月25日に支給される給与は全額課税対象となります。
(2) 帰国後、最初に支払う賞与の取扱い
帰国後最初に支払われる賞与についても、支給時には居住者として扱われるため給与と同様に全額が課税の対象となります。こちらも出国時の按分計算する取扱いとは異なりますので注意が必要です。
この場合、賞与計算期間のすべてが国外勤務となっていますが、賞与支給日には居住者ですので、4月25日に支給される賞与は全額課税対象となります。
(3)年末調整
年の途中で海外勤務から国内勤務となった場合は、居住者となった日以後に支払われた給与について年末調整を行うことになります。この場合の所得控除は次のように取り扱います。
① 社会保険料控除、生命保険料控除及び地震保険料控除等についてはその者が居住者であった期間内に支払った金額が控除の対象となる。
② 控除対象配偶者、扶養親族等の判定については、帰国をした年の最後に給与を支給する日の現況において判断する。
5. おわりに
今回のニュースでは「海外勤務者の日本における給与所得課税」について取り上げました。
なお、今回の解説も、概略的な内容を紹介する目的で作成されたものですので、専門家としてのアドバイスは含まれておりません。個別に専門家からのアドバイスを受けることなく、本情報を基に判断し行動されることのないようお願い申し上げます。
ご不明な点がございましたら、お気軽に弊社までご相談ください。
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