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2017.09.30

電子帳簿保存制度の経緯と現状

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1 はじめに

 税法をはじめとした日本の法制度上、企業には帳簿やその他の書類の一定期間の保存・管理が義務付けられていますが、その物理的、経済的なコストは決して小さくありません。それらをいかに削減するかは企業にとって重要な課題であり、その対応策のひとつが、文書の電子化保存です。
 日本政府はこの電子化保存の普及を目指し、平成10年7月、いわゆる電子帳簿保存法を施行させ、その後も状況に応じて必要な法整備をしてきました。しかし様々な要因から、当該電子化がスムーズに普及しているとは必ずしも言えない現状にあります。
そこで今回は、電子化保存普及のためのこれまでの政府の取り組み、近年の法律改正の内容、そして今後の課題について考えていきたいと思います。



2 平成27年度以前までの経緯

1)電子帳簿保存法
平成10年7月に施行されたいわゆる電子帳簿保存法は(注1)、電子計算機を利用して作成された国税関係帳簿書類について、電磁的記録の備え付け及び保存を持って書面の保存に代える制度でした。
しかしながら、取引先から受領した紙の請求書等は対象外であったことから、電子化保存が広く浸透することはありませんでした。


2)e-文書法
これを受けて、平成17年4月に制定されたのが、いわゆるe-文書法です。これにより、相手方から受領した紙の書類又は自己が作成した紙の書類の写しを電子化し、紙の原本に代えて、電磁的記録を原本とする、スキャナ保存制度がスタートしました。
しかし、下記のように保存対象や入力方法に厳しい法的要件があったため、制度の認証件数は伸び悩みました。


・3万円以上の証憑にはスキャナ保存が認められない
・入力データ改ざん防止のための要件(入力期間の制限、電子署名の徹底など)


3 27年度および28年度の税制改正・その1

 文書の電子化保存についての社会的な規制緩和要望の高まりを受けて、これまでの要件を緩和する平成27年度および28年度の税制改正がなされました。その主な内容は以下の通りです。


4 27年度および28年度の税制改正・その2- 適正事務処理要件

電子化の入力要件は緩和されましたが、電子データは紙面書類よりも改ざんが容易です(注2)。そこで、当該改ざんを防止するため「適正事務処理要件」として、下記の通り企業内で電子データを組織的にチェックする体制、すなわち内部統制を構築・運用することが求められるようになりました。



a. 相互牽制



各事務手続きについて、それぞれ別の者が行う体制



b. 定期的検査



事務処理の内容を確認するための定期的な検査を行う体制及び手続



c. 改善体制



処理に不備他あると認められた場合に、報告、原因究明及び改善のための方策の検討を行う体制




 5 現時点の課題

このように日本政府は、企業に電子データ改ざん防止のための内部統制の適用を義務付けることによって、その入力要件を緩和してきました。
 しかし、人手が不足しがちな中小企業にとっては、この内部統制の要件は却って大きな負担になります。電子化保存の利便性よりも当該内部統制運用コストの負担の方が高いと判断した場合には、当該電子化保存制度の適用を妨げる要因ともなり得ます。この利便性とコストを比較して経済合理性が伴うというイメージを、多くの企業に与えられるか否かが制度普及のポイントになってきます。


6 おわりに

これまで様々な法律が施行されても、文書の電子化保存は社会に広く浸透してきませんでした。一方で将来、電子化技術が進歩し、より改ざん困難なデータ作成・保存が可能になれば、入力要件も内部統制要件も緩和されることが予想され、更なる普及が期待できると言えます。
 日々進歩する技術を活用して、社会全体の生産性の向上に資することと、一方で課税の公平性などの税務行政面での保持すべき要件を充足すること、日本政府にはこれら両面の観点から、目指すべき姿を追求する姿勢が求められています。
                                    以 上

脚注
(注1):
平成10年7月に施行された、いわゆる電子帳簿保存法の第一条は、その要旨を以下のように定めています。
「この法律は、情報化社会に対応し、国税の納税義務の適正な履行を確保しつつ納税者等の国税関係帳簿書類の保存に係る負担を軽減する等のため、電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等について、所得税法(昭和四十年法律第三十三号)、法人税法(昭和四十年法律第三十四号)その他の国税に関する法律の特例を定めるものとする。」


(注2):
監査基準委員会報告500の「監査証拠」によれば、「原本によって提供された監査証拠は、コピーやファックス、フィルム化、デジタル化その 他の方法で電子媒体に変換された文書によって提供された監査証拠よりも、証明力が強い。」とあり、裏を返せば電子データは容易に改ざんが可能であるという考えがあります。
加えて、「原本以外の文書の信頼性は、その作成と管理に関する内部統制に依存することがある。」とあることから、電子データの真正性を担保するためには、適正な内部統制体制の構築が要求されることになります

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